「最高の体調」鈴木祐
「良い人間関係」こそが幸福への近道
今の世界は人間の「不安」で動いている。
あらゆる経済活動は、不安から逃れる、解放されるために、動いているように僕には思える。そして、その不安は具体的でないものである方が多い。
コロナ・ウィルスをめぐる動きがまさにそうで、「不安」の世界的蔓延を猛烈に加速させてしまった。実態のよくつかめないものが、SNSなどでさまざまなデマを多分に含んだ情報になり、人々を引っ掻き回した。
さて、この「最高の体調」。よくある、健康志向の本かと思ったら大間違いだ。
世の中で見かける体調関連の本といえば、まず睡眠、食事の話が中心で、あとは軽い運動、ストレッチ、あるいは瞑想、ヨガなどを加えるというのがまず定番だ。
しかし、この本の優れているところは、「最高の体調」を手に入れるのに重大なテーマとして「不安」に多くページを割いているところだ。そして、そのための具体的な研究、実証データを集めて、最良の対処法を見つけていく、という流れになっている。
作者はこう述べる。
「不安の機能は「アラーム」です」
ただし、原始時代の不安は、身の危険を感知しようとする「はっきりした不安」であったのに対し、現代人の不安は「ぼんやりした不安」だという。
本来「不安」は目の前に迫った危険への対策を促すためのシステムであるのに、人類は農耕を始めたことにより「遠い未来」まで思う必要に迫られることになり、「不安」が遠い未来に関してはちゃんと機能できないで誤作動を起こしている状態になったというわけだ。
身に迫った危険を察知する「不安」は生き延びるために必要でも、漠然とした未来を気に病むタイプの「不安」は、脳の機能を衰えさせてしまうだけの害しかないのだ。
数多ある自己啓発書やスピリチュアル系の本で必ずといっていいほど見かけるメソッド「今この瞬間に意識をフォーカスする」というのは、人間本来が持つ機能を考えても理にかなった正しい方法だったわけだ。
ぼんやりした不安というのは、未来との心理的距離が近いことで緩和されるらしい。心理的距離とは、未来の自分をどれだけ現実感を持って捉えることができるか、ということだ。
不安への対処法としては、まず自分の価値観を明確にして、そこから導き出される具体的なプロジェクトを実践しフィードバックするというやり方が提案されている。
(具体的な方法も書かれている)
また、他に僕が興味深かったのが、この本で取り上げられたデータの中で、ハーバード大学が80年にわたって724人を対象に行った「成人発達研究」の結果だ。
その研究で「人間の幸福にとって最も大事なものとは?」の答えが導き出されたという。
「彼らの人生から得られた、何万ページにもなる情報から明らかになった事は何でしょう?それは富でも名声でもがむしゃらに働く事でもありません。私たちの体を健康にし、心を幸福にしてくれるのは『良い人間関係』です。これが結論です」
良い人間関係をキープできている人は記憶力も長く維持できたという。
またミシガン州立大学の研究ではこういうことが導き出されそうだ。
「自分の行動が他者に良い影響を与えていると確信できたときほど、私たちの幸福感は高まりやすくなります」
自分の周りの人間関係を見直して改善し、喜んで手助けをする、ということは、最も効果的で身近な”幸福への道”なのかもしれない。
もちろん、この本には「腸内細菌を活性化させる」「睡眠の質を上げる」などの本来の体調改善のメソッドも具体的に書かれているので、実に至れり尽くせりな一冊だと思う。