「SHOE DOG 靴にすべてを。」フィル・ナイト〜映画っぽいスタイルのこの本の続編は映画「AIR」で
「映画」仕立ての”エンタテインメント自叙伝”
この本が面白くてどんどん読めてしまうのは、「映画」の構成を使ってるからだな。
夜明けにひとりランニングに出かけるオープニングから、彼が起業を思い立つ1962年へとタイム・スリップし、そこからのエピソードを臨場感たっぷりにリアルに、ひとつひとつのエピソードは短くテンポよく語られてゆく。個性的なキャラの人物が次々と現れ、彼らと自身の絡みを軸にして本編は進んでゆく。
そして最後に現在へと時間は飛び、自分が妻と映画を見に行ったシーンへと移り、メインの登場人物のその後の人生について触れた後、自身のメッセージで締める。
これはもう、ハリウッド映画の”鉄板パターン”みたいだ。ある意味”映画の文字起こし”みたいな本になっているのだ。
次に僕が注目したのは、本編を起業から株式上場までの時代(1962年から1980年)に絞り込んでいるとこ。
多くの人が”ナイキ”と言えばすぐに連想する「エア・ジョーダン」や「タイガー・ウッズ」などの話はバッサリ、割愛している。
そして、この「ナイキ黎明期」は途切れることのないトラブルや苦難の物語だ。
特に今の時代、セレブな成功物語の焦点を絞っても誰も読まないと思ったのかもしれない。起業後の困難をどうやって乗り越えてきたかを正直に書くことが、誰かに何らかのヒントになりうると。
それから、この本の中で映画『最高の人生の見つけ方』が紹介されて,主人公のセリフが引用される。
「自分の価値は、自分が関わる人たちで決まる」
これは、即ちこの本の主題でもあり、読者への一番のメッセージになっていると、僕は考える。
日本のオニツカタイガー(アシックス)のシューズに惚れ込んで、アメリカでの販売代理業をひとりでスタートさせ、そこからさまざまな局面でいろんな人物と繋がってゆく。彼らは結果的に「ナイキ」を発展させる重要な役割を果たすのだが、彼らは皆、長所もあるが、相当な短所もある人間臭い面々だ。
不完全な人間同士が出会って、つかの間同じ夢を共有し、補完し合いながら共同体となって生きること。それが人生では成功すること以上に大切なのだと彼は言っているようにも思える。
それから、さりげなく僕が注目したのは、彼は”事に当たって、しっかり準備する人”だということだ。
日本や中国に交渉に行く前には、ビジネスだけじゃなく、その国の文化や歴史も相当勉強している。この本を書くにあたっては、スタンフォード大学でしっかり文章を書く勉強もしていたらしい。
全体的には、筆者自身の自己評価はかなり低めで書かれている本なのだが、こういったところに彼の”成功の秘訣”が垣間見れるようで面白い。
あっ、あとひとつ。
「神戸」に本社を置くオニツカ「タイガー」のシューズから始まった”ナイキ”を躍進させる大きな広告塔となったアスリートの名前が、”コービー”(KOBE 、神戸牛が好きだった親が命名した)・ブライアント、”タイガー”・ウッズだという不思議な符合に作者が気づくところも「おおっ」て感じで興味深かった。
エア・ジョーダンのストーリーはこちらの映画でバッチリ